インタビュー“音楽を通じて自由を主張するウクライナの若者たちの本音”

2017.02.06 Mon TEXT:BANANA CATEGORY:report

最近、i-DやDazedなど海外での様々なマガジンにて目にするウクライナのパーティーシーンの内側に世界中のミュージックファンが注目し始めているのは言うまでも無いが、今から約二年前に半年間ほどウクライナにて滞在していた僕にとってもここ最近、更に勢いを増して新しいスタイルのミュージック文化が首都キエフを中心に進化しており、非常に興味をそそられる。

ウクライナと言えばチェルノブイリ原発事故で日本では有名かもしれない、日本でも2011年の3月11日に起きた東日本大震災の際に福島での原発事故が起き、一時はチェルノブイリ原発事故と同じ事が起こるのでは無いかとテレビでは恐れられていた。

チェルノブイリ事故もあってかウクライナと日本の関係は国が遠くにありながらもお互いの深いダメージを心配し、ケアし合っている様な繋がりを現地や博物館では強く感じた。

用事があったのでマレーシアにある首都クアラルンプールへと足を運んだ、アジアでも飛行機の便が数多く飛んでいるクアラルンプールという事もあり、空港内はまるでホテルの様に美しく、多くの高級ブランドショップが立ち並んでいたり、バックパッカーからするとあまり落ち着く事が出来なかった。

クアラルンプールにある観光客が沢山訪れるペトロナスツインタワー。

ここマレーシアの首都であるクアラルンプールにて数日間滞在したホステルにて二年前に滞在したことのあるウクライナの首都であるキエフ出身というウクライナ人の若者二人に出会う事が出来た、それに彼らは僕がキエフに滞在中に通っていたクラブに同じ時期に遊びに行っていたという。

僕自身、世界一周中の中でも特に滞在期間が長かったウクライナという国に関しては非常に親近感が湧くと同時に不思議とウクライナ人に対しては仲間意識が出てくる。

ウクライナの首都であるキエフの中でも冷たい雰囲気の団地が並んでいる地域、トロイエシナと言う地域。 日本では下流階級と呼ばれる収入が非常に厳しい市民たちがこの団地に暮らしている、写真はキエフを拠点に活動されている日本人フォトグラファーのHiroyuki Koshikawa(http://shityuki.tumblr.com/)さんに撮影して頂いた。

ロシアとの国境の戦争で多くの人々が苦しい思いをしていると言うのも滞在していた頃から良く耳にしていたので、実際にそれを一番近くに感じているウクライナの人たちに話を伺いたいというのはウクライナに居た頃からすでに思っていたが、やはりこの問題は重みがあり聞きずらいというのもありなかなか踏み出せるチャンスが無かった。

そして今回、ホステルにて会ったキエフ出身の若者二人に国の状況について一体どういう風に考えているのか、普段では聞く事の出来ない内に秘めた深い所まで探ってみる事にした、すると日本にいると気付けない幸せの基準を変えさせられる程の厳しい問題に接している事に気付かされた。

まず最初に僕が一番気になっている事は、ウクライナの徴兵制度についてだ。

つい最近、日本でも徴兵制ではないが、集団的自衛権について大きな問題になり、戦争に行かなくてはならないかもしれないという状況に恐怖を感じた若者たちが大きなデモンストレーションを行ったりと、一時的に世間の目を集める動きがあった。

では今まさに戦争が起こっているウクライナでの状況は一体どういった物になっているのかと、直接彼らに話を聞いてみた。

(ここからインタビュー形式になります。)

筆者:ウクライナの徴兵制についてなんですが、僕はウクライナに住んでいた事があり簡単には話を聞いた事があるんですが、ウクライナでは18歳になると男性は徴兵制によって軍隊へ入らなければ行けないというのは本当ですか?

若者:はい、でももう少し詳しく説明すると、もしも大学に行っていない場合は18歳から行かなければいけなくて、大学に行く場合ではまた違ってきて、基本的に大学を卒業した後すぐに国から軍隊へ行きなさいと言う通知が来て、行かなければいけません。

筆者:それはどんな人でも同じなんですか?

若者:いえ、もしも良い大学に行っていたりお金を持っていたり、立場の高い人たちの場合は少し変わってくるみたいです。

筆者:軍隊へ滞在しなければいけないのはどのくらいの期間ですか?

若者:さっきも言った通り良い大学に出ていたり、お金に余裕がある人たちは1年間、それ以外のあまり金銭的に余裕がないような人達は1年半の間を軍隊にて過ごさなきゃいけない事になっているみたいです。

筆者:軍隊へ入った後に何か国から貰える保障など自分にとって助けになるものはあるんでしょうか?

若者:ありません。ただ、軍隊に入っている間や入った後に戦争に参加をした場合には勲章のような形で交通費などが無償になるというのはあるみたいです。

筆者:なるほど・・・。僕はウクライナに居た際に何人もその徴兵制から逃れる為に地元から離れて政府から隠れながら生活している若い人たちに会ってきたんですが、周りにはそういう人は多いですか?

若者:はい、もちろん。ウクライナにはそういう人たちが沢山いますし、現に僕の周りでも何人も軍隊に行きたくないからと隠れて生活している友達がいます。

筆者:ちなみにあなたは徴兵制から逃れる為に旅をしているとかではないんですか?

若者:いや、僕は旅をするのが夢だからこうやって旅をしているんですが、この後にウクライナに戻ったら軍隊へ行かなければ行けない事になっているからそれからは政府には隠れて生活するつもりです、軍隊に一年間行かなければいけないなんて僕は嫌だからね。

筆者:徴兵制で軍隊へ1年、または1年半過ごした後はもう軍人では無くなるんですか?日本では軍隊制度が全く違う物なので変な質問かもしれませんが。

若者:もしも軍人が足りなくなって戦わなければいけない場合は、徴兵制で軍人を経験している人は戦争に駆り出されます。

筆者:日本ではそういった事がないので、僕みたいな戦争や軍隊への接点が全くない人間からすると、絶対に嫌だと思ってしまうんですが、あなたはこの制度に関してどう思っていますか?

若者:この制度が好きな人なんてもちろんいないだろうね、そもそも楽しそうだからっていう理由で戦争をしたい人なんていないだろうからこの制度を喜ぶ人は居ないだろうね、でも国の状況が状況だからこうなっているのは仕方ないのかもしれない。

筆者:詳しくありがとうございました。ここからは話が変わるんですが、ウクライナについて話を聞かせて貰いたいです。まずウクライナという国のどこが一番好きですか?

若者:・・・(数秒黙り込む)。全部。いや、でも僕はキエフ出身なんですが、一つ嫌いな部分は街での人の雰囲気が嫌い。みんな不機嫌というか、他人の事を気にしないし他人だから関係ないだろうと言った雰囲気がある。人が人に対して凄く冷たい。

筆者:そうなんだ、僕も東京生まれの東京育ちなので街での人が冷たいという気持ちはありましたね、でも僕もキエフに居た際は東京の人が冷たい感じよりも更に暗いじゃないけどそういったイメージを受けたな。

若者:それにウクライナ人同士ではあんまりお互いに気を使わない気がするね、でもその代わり誰かと仲良くなるとその関係って言うのは凄く強い繋がりになるって俺は思ってる。

筆者:確かにそれもウクライナに居た時は感じたな、他に何かウクライナについて好きな物はありますか?

若者:やっぱり食べ物だね、それとウクライナ人のパーティーの仕方だね。

筆者:それは僕も大好きな部分だな。ウクライナ人は本当にパーティーが大好きですよね。もちろんお酒を飲む文化があるというのもあるのだろうけど、キエフにあるクラブへ訪れた時はみんなが一体化しているというか、友達とクラブへ一緒に遊びに行くと言うよりもクラブが家で、週末になるとそこに帰って来て集まる家族たちの様な感じがしたな。

若者:そうそう、クローサーって言うクラブがあるんだけど、そこなんかに行くと安心するというか、あそこにいる人たちは友達を超えて、音楽で繋がっている家族みたいな感じ。

筆者:クローサーは僕もキエフに居た頃に毎週末行ってたな、テクノ音楽を通じて僕らは同じ類の人間だって言わなくてもお互いに理解出来て、自然とスーッと輪の中に入れる感覚。あの感覚には痺れたな、もう一度キエフに遊びに行きたい。それじゃあ、ウクライナのテクノシーンについてはどう考えてますか?

若者:正直、ウクライナっていう国にとってテクノが流行るって言うのは個人的には少し変だなって感じる。やっぱりお酒を飲む文化があるから今までだったらお酒を酔っぱらうまで飲んでコマーシャルな音楽のクラブへ行ってまた飲んで踊って。そんな様な物が主流だったんだけどね、今はテクノシーンが凄く若者の間で熱くなってきていてテクノって言う音楽が人を繋げるきっかけにもなっているし、同じ物が好きな連中が自然と家族みたいに集まる場所を作ってくれてる。ただの音楽って言う表現だけだと言い表せない部分があるね。

筆者:同感です。僕もキエフに居た頃はウクライナ人と友達になる方法が分からなくて、たまたまクローサーを見付けて怯えながら行って見たら違う国から来ているのに数回目で知らない間に友達が沢山出来ていたな。そういう面でテクノは音楽っていう物だけでは留まらない力を持ってるなって思いますね。

若者:あんなに一体感が出ているって言うのも面白いよね、ビートが重くなったり激しくなったりでダンスフロアで踊ってる人達の動きもその音楽に合っていって、その場にいるみんながそれぞれ違う踊り方をしていてもみんな統一性があるっていうか。

筆者:それは面白い、そう考えるとクラブで流れている音楽もその場にいる踊っている人たちも一体化している音の様に思えてくるな。今回は貴重なお話をありがとうございました。

若者:いえいえ、またもしキエフに来たら一緒に踊りましょう!

今回この様に貴重な話を聞くことが出来て、日本という戦争からあまり接点のない国で育った僕は幸せの基準と言うものが少し変わり、今までの生活に感謝をする機会が増えた様に感じる、そして音楽という物が人と人を繋げるという思いも更に強まった。

九十年代のヨーロッパでのレイブパーティーを彷彿させる様なスタイルのパーティーが増えてきたウクライナ、政治的状況が悪化する事によってそれに比例しているかのように音楽のシーンが成長している様にも感じられる、それが良い事か悪い事かは人によって様々だが国の状況が若者たちの音楽への情熱を更に深めているのは実際に滞在している時に自ら感じられた、これからのウクライナのミュージックシーンにも目が離せません。

ライタープロフィール:正宮 光(Hikaru Masamiya)

東京生まれ東京育ちのオーストラリア人と中国人ハーフ、16歳からMen's non-noやGRINDなどの雑誌にてモデルとして活動し、それをきっかけにファッション・アートの世界に惹かれる。高校を卒業した後、約二年間の世界一周の旅へ出る。アメリカを始めヨーロッパの首都を中心に世界を放浪しながらファッションジャーナリスト、記者、フォトグラファーとしてメジャーではないファッションウィーク、まだあまり注目されていないマイナーな街でのファッションリサーチや取材を行っている。自らアンダーグラウンドシーンや危ない地域に足を訪れては、日本ではまだ知られていないローカルカルチャーにスポットを当て、様々な形で発信する。2016年の12月よりインドネシアのバリ島に拠点を移し、アーティスト、デザイナー、ジャーナリスト、記者として活動中。

Contact: hikarumasamiya@gmail.com

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